万人鉱物-コモン君の悪夢 2006年製作2012年加筆

万人鉱物-コモン君の悪夢

田井英祐

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燃える水田の稲穂を前に

たたずむおまえの

横にいる

黒光りをしている万水鉱物

私の立っている場所から

そいつの顔は見えない

あなたはそいつに微笑みかける

私に解らぬ言葉を開きながら

私はあなたとそいつの勾引しあうリズムの間隙に

あなたに向かって信号を送る---

---失われた言葉を軸にして

あなたは私に向かって微笑みかける---

---自明の言葉で閉ざしながら

私とあなたとの間に立ちはだかる田泥化芽罹厭

私は--言葉を、私の言葉を矛に変え

それに挑みかかる

あなたを求めて

切り裂いた蔓たちから噴き出る

薄緑の用水に包まれた自明の言葉

万水鉱物

私はそれを、私は纏わりつく万水鉱物を、

切り、壊し、抉り、拉ぎ、

進む、進め!

失われた言葉を呻きながら!

私は声を上げた!

その声が、

声を張り上げさせた肺が、

肺を構成する細胞が、

細胞の構成を考えた遺伝子が、

遺伝子の組み合わせを考えた運命が、

運命を成り立たせた歴史が、

この私の流れが、

万水鉱物に触れたことにより逆流する!

私は声を上げた!

声を上げることにより肺が膨らみ

肺が膨らむことにより細胞が分裂し、

細胞が分裂することにより遺伝子が複製し、

遺伝子が複製することにより運命が変わり、

運命が変わることにより、

歴史が変わる!

声を発することにより変わるのならば私は、

声を上げ、

貴方を、

しかし、私の言葉は失われている!

ーーーーーッ! 叫、狂声!

私の足があなた達の居る方に辿り着いた時

青く瀕したる馬に

乗った

狂人に

私は鎌槍で

首を砕かれた

私の首から

吹き出た

言葉達が

世界に触れた